「転職しました」という報告

「私が公認心理師でありキャリアコンサルタントである」ということは、おでこに名刺でも貼っていない限り、初対面の人には知る由もありません。あたりまえですが。

先日、私が公認心理師、キャリアコンサルタントであるということを夢にも思わない20代半ばの会社員の方と話しをする機会がありました。

いったいどういうシチュエーションかというと・・・相手はとある会社の営業担当。売り込みをかけられているという状況です。

man and woman near table

職業柄(?)、目の前の初対面の人が、なぜ、どのような経緯で今の職業に就いているのか、いまどのようなことが楽しくて仕事をしていらっしゃるのか、などなど、個人的にとても興味があるのですが、もちろん相手の方は私にカウンセリングを期待しているわけではないですし、そもそもこちらに何かを売り込みに来ることが目的でいるわけで、いくら興味があるからといってその方のプライベートな内容について突然尋ねてみるわけにもいかず。

・・・とは思っているのです。

が。

流れでついつい聞いてしまう・・聞けてしまう・・・ことも・・・たまにあります。

営業で来られて、「これ、どうですか?買いませんか?」という話しから始まったとしても(出会っていきなりこんな風に直接的に話をすることはありませんが)、直接仕事とは関係ないけれども自分の会社の話、仕事の話から世間一般をにぎわせている出来事など、四方山話をすることは実は少なくありません。

それはおそらく雑談をしたいから、ということではなく、雑談のような会話をしながら、お互いの人となりを理解し合って、うまく取引ができる相手なのか、信用できる相手なのか、というようなことを互いに探っているということなのでしょう。

そんな中で、「ところであなたはなぜ今の会社でお勤めなのですか?」とか「学生時代はどのようなことをされていたんですか?」というようなことを少し聞くことができる場合があるのです。
話しの流れで、こちらが聞かなくても「学生時代はスポーツをしていたんですよ」などという話をしてくださることもあります。

いざ働きだすと、改めて自分の過去を振り返ったり、振り返って感じることを言葉にするということがきっと少ないのでしょう。
私から「なぜ?」という質問されると、ふと仕事用の表情が消え、ご自身の素顔に近い表情になり、何かを思い出すように少し遠い目をして、意外に詳しく話をされることも少なくありません。

過去を知らない相手に限られた時間の中で話しをする、というシチュエーションが、つい話したくなる理由の一つだと思います。

silver and black camera silver and black laptop blue ceramic mug


さて、数ヶ月前に、そのような個人的な話を少し聞くことができた営業担当の方がおられました。

まだ若く20代後半のその方は、学生時代に力を入れていたことと今の仕事はまるで正反対の性質のもののようでした。
まったくジャンルが違う会社に勤めているということにご本人も納得され、「新しい世界を勉強できて学生時代にはなかった経験ができてうれしい」というようなことをおっしゃっていたのが印象的だったので覚えていました。

その方が先日、再び来られ、なんと!

「すみません、以前に商品の説明をさせていただいたのですが、今の会社を退職することになりました。転職します。」とご挨拶に来られたのです。

思いがけなかったので一瞬絶句してしまいましたが、それはめでたいこと!

「それは・・・!おめでとうございます!」

と答えるととても明るいほっとした表情になりました。

そして驚いたことに「あのとき、話を聞いてくださったことが、自分を見直すきっかけになりました。ありがとうございました。」とおっしゃったのです。



数ヶ月前に私と話をしたあと、その方がどんなことを考え、転職の決断に至ったのか、それは知る由もありませんが「退職します。転職します。」と告げに来てくださったその表情は、数ヶ月前に出会ったお顔よりも生き生きされていました。

思い返せばその方、「就職するときは友達が入りたいといった会社に一緒に面接の練習のつもりで入社試験を受けたんです。私だけ内定をもらえたんですが、条件も悪くなかったし良かったなと思って・・・」というようなことをお話しされていたように思います。

お友達との入社試験のときに、もし私と遭遇していて同じような話しをしていたとしても、その人は何も変わらなかったかもしれません。

でも、いったん社会人になり、周囲とも人間関係を作り、自分でできること、しなければならないことなどが見えてきたとき。

いざ自分自身を振り返ると、いままで気がつかなかった自分自身が見えてきた・・・ということなのだと思います。

会社にとっては、外回りの営業に行ってもらって社員が転職を考えるようになった・・・というとそれは大変な損失になることですが、一方、社員である個人にとっては、自分が納得できる仕事をするということは、限りある人生を生き抜く上で大切な選択になりますよね。
それはひいては会社、もっと大きなつながりを考えれば、社会にとっても幸せな結果につながると思います。

一つの出逢いをしっかり受け止め無事に転職をしたその方の前途に 大きな幸あれと祈ります。




Follow me!