「ありがとう」の宿題

今日、地下鉄に乗りましたら平日の昼間ということもあり、ちらほら席が空いていたのと30分くらい離れた駅に向かう予定でしたので、空いているところに座りました。

大阪市営地下鉄の長いすがすべてそうかは知りませんが、きっちり詰めて座ると大人が6人座れる椅子です。

このごろはコロナの影響もあることと、コートを着て着膨れしていることもあり、5人でゆったり座る、という場合もまま見られます。

city road person people



立っている人もいず、向かいのシートもちらほら空いていたのですが駅に着くたびに人が増え、私の座っているシートはゆったり座る5人になり、立つ人も少し見られるようになりました。

その時、乗り込んできた一人の女性が私の左前にこちらを向いて立ち止まりました。

5人でゆったり座っている状態でしたので、私がちょっと右横に詰めれば空きますが、私だけが詰めても半人前しか空きませんので、私の左に座っている男性も、ちょいと左に詰めていただけるとようやく一人が座れるスペースが空きます。

そこは見ず知らずのお隣さんと阿吽の呼吸が必要なのですが、スマホに夢中になって気がつかない方もいらっしゃったりしますので、私は”右に詰める”という動作を少し大げさにしてみたわけです。

と、そんな必要もなく左隣のこちらは男性だったのですが、その方もこちらの気配に気がついた瞬間にスッと動いてくださって、無事に一人が座れるスペースが空きました。

さて次は立っている女性。

目の前のスペースが空いても、座りたくない、という方ももちろんいらっしゃいますから、「空けたから座ってくださいね!」というつもりはないので、でも「どうされるかな?」と気になりつつ気にしていない風を装うのですが、今日のその方は「すみません、ありがとうございます」と会釈してくださってすぐ私の左隣に座られました。

普通、というか、たいていは、ここまで。

ここまでのシーンはよくあることです。

今日は、少しだけこの続きがありました。

数駅目に大きな駅があり、そこで大勢の人が降りていきました。

席もたくさん空きができました。向かいのシートもガラガラです。

私の左隣の女性は向かいのシートに端に移り、いねむりを始めたようです。

そのまま数駅過ぎ。

いつの間にか左に詰めてくださった男性もいなくなっていて、私はもう、その女性の存在もほとんど忘れていました。

そうして、とある駅に停車したとき。

先ほどの女性がわざわざ私の近くまで来られて

「先ほどはどうもありがとう」

と声をかけ降りていかれたのでした。

そんなにお礼を言っていただくほどのことをしたわけではなく、また隣に座っていた男性の協力がなければ叶わなかったことでもあり、突然だったこともあって「いえいえ・・・」と口ごもることしかできませんでした。

女性が降りていった後、コロナ禍で人とのふれあいが少なくなってきている今日この頃、わざわざ声をかけてくださったことにとても心が温かくなりました。

そして、その方が「ありがとう」と言ってくださった想いをあれこれ勝手に想像して、またほっこりした気持ちになりました。

silver colored heart lock bridge thanks



「ありがとう」という気持ちはあっても、言葉に出して相手に伝えるということはなかなか難しかったりしませんか?

「ありがとう」と声をかけてくださったことに対して「ありがとう」とお礼を言いたい気持ちになりましたが、おそらくもうこれきりその方とお会いすることはなく、もし会ったとしてもお互い気がつくことはないでしょう。

今日いただいた「ありがとう」への「ありがとう」は、その方へ届ける代わりに、誰か知らない方へお届けする、という私ひとりだけの楽しい宿題になりました。

上手に「ありがとう」と言えますように・・・

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